令和元年7月3~4日 札幌市において開催された第39回老人福祉施設研究発表会に当法人施設芳生苑が参加し、ご本人本位の介護実践「動き出しはご本人から」の取り組みを発表してきました。
研究会参加のきっかけ
全道でも名だたる施設が参加した研究会は、合計36の発表があり、各施設とも日々頑張っている取組みについて報告されていました。
今回芳生苑が、この研究発表会に参加することになったきっかけは、上川管内6施設構成のかみかわユニットケア・サテライトケア研究会において毎年実施していた実践発表セミナーが平成29年度末で一区切りし、現場の実践発表は全道の研究会でという方向性になったことからでした。
どの様な理由でも、普段の取り組みをきちんと言語化しアウトプットできる場は、とても貴重で大切な事だと思い参加を決めました。
発表は「動きだし」で
芳生苑は、3年前から実践を続けている『動きだしはご本人から』で変わった私たち職員のケアの取り組み方について報告しました。
当時私たちは、自分たちのケアに迷い、何をしても上手くいかず足踏み状態が続いていました。
そんな中、介護新聞で連載されていた、日本医療大学 大堀具視教授の『動き出しはご本人から』の介護技術に出会いました。
考え方そして技術とも自然な介護実践に感銘を受け、藁をもつかむ思いで、大堀先生に介護実践のご指導をお願いしました。
先生は、当施設の事情を承知し、『動きだし』の介護技術を指導してくださることになりました。
私たちは、これまでもご利用者本位の介護を大切にして関わりを進めてきたつもりでしたが、どこか介護者主体のケアが抜けず悪い習慣が改善されない、どんな介護技術を学んでも継続できないといったところがありました。
先生の指導は、施設全体の体質まで改善する画期的なものでした。
最初の1年目は、新たな外部講師の介護技術講座という感覚で、動き出しを待てないスピード重視の介護、介護者主体の介護は全く抜けませんでした。
そして2年目、まだ一向に変わらないケア、動き出しがいまひとつ理解出来ないスタッフに、どうしたら伝えられるのだろうと、生活相談員は日々悩んでいました。
先進施設のご厚意により実践見学に伺い、さらに前年の現場実践のビデオを繰り返し学習することなどでスタッフの理解を深め、改めて動き出しに向き合う姿勢を持つことができたのです。
大堀先生は、私たち自身の動き出しも待っていてくれていました。
そうして、日々実践を繰り返し、ご利用者様の思いを知り、動きを待つことは、難しさこそ感じるけれどそれがとても理にかなっている事に気づいたのです。
それから私たちは、『動きだし』の取り組みから、認知症ケアであろうが、看取りであろうが、身体拘束防止であろうがどんなケアの場面でもすべてが動き出しの考え方へつながることに気づきました。
その後、ずっと取り組みを続けた結果、平成30年度の職場内実践発表会では、『動きだし』に特化し全ユニットで色々な場面における本人本位の取組を発表し合うまでになりました。
そうなると、ずっと全道研究大会の準備をしていた私たちは、やはり『動き出し』を主とした実践を報告するしかないと、今回実践の内容を決めたのです。
「動きだし」で私たちが変わる~研究発表より
7月4日の研究大会では、第1分科会から第4分科会に分かれ、①個別ケア ②リスクマネジメント ③ケア向上の取組 ④人材育成 ⑤地域 ⑥看取り介護 ⑦デイサービス いずれかの内容を選択し発表する形で行われました。
芳生苑は、第3分科会 10本の発表のうち 8番目に登壇し、③ケア向上の取組の内容で『動き出し』の取り組みを通じて私たちが変わる、変わったことを全道各施設の皆様に発表してきました。
今回の事例は、今年度から開始し5月に先生から現場実践指導を頂いて、現在に至っているもので、実は一昨年入職したばかりの職員が担当し、ご利用者様とのかかわりを積み重ねた成果としての身体機能向上と、これまでの動き出しの導入について発表しました。
事例の対象者は、入所時以前の安静臥床による廃用症候群の進行により、関節が拘縮し、全身状態及び認知機能低下が顕著で、食事、入浴、排泄全てに介助が必要な、あえて誰もが、動きだし実践対象者とは考えにくい方でした。
ですが、ふだん天井しか見ることがなく会話すら難しかったこの方が、ある時、前にいた介護員に「自分で足を動かせるからよけてほしい」と話したのです。
その時は動けなかったのですが、もしかしてと、介護技術検討委員会で検討し、実践ラウンドの対象者として試みる事としました。
それからというものの、職員は、ご本人にやる気と自信を持っていただけるように、こまめに関わりをもち、励ましの声かけや支援を続けました。
足が拘縮して尖足気味なので支援は必要ですが、日々の取り組みで、なんと、座位が安定して自走式の普通型に移乗が可能となり、自分でこげるまでになりました。
お食事もご自分で摂取が可能となり、発語も増え、私たちと会話を楽しんでくださるようになりました。
まだ、実践期間が短いため、身体状況がより安定するような関わりはもう少し必要ですが、ご利用者様もご自分で動けることにとても喜びを感じておられるようです。
今回、私たちは、ご利用者様の「私できるよ」の言葉を受け止め、ご本人主体の介護の一歩を始めました。そして、ご利用者様に「そばにいるから、安心してどうぞ、やってみてください」というスタンスで支援することで、動けない人という先入観を無くし、ご本人を尊重する本当の意味を理解し、ケアに自信が持てるようになってきました。
動き出しの実践により、職員が、とても変わりました。
職員皆が、このご利用者にかかわらず誰に対しても、言葉づかいに気をつけ、出会いを大切にあいさつし、丁寧に関わり、相手の立場で考えることが出来るようになってきました。
皆が、同じ方向を向いて、一緒に頑張っていくことで職場環境も変わりました。
先生が、来られるたびに「なんだか、施設がすごく明るくなったね」とおっしゃってくださいます。
3年前、何とか職場環境の改善につなげ、ケアが向上していく術がないかと始めた『動きだしはご本人から』の介護実践。
ケアを行う上でごく当たり前のことである『本人本位』を大切にする介護技術は、技術はもとより私たち自身の考え方も変わりました。
まだまだ、沢山課題はあるけれど、それを、どうしていこうか、どうしたらできるのだろうと、皆で考える楽しみや意欲も湧いています。
今回、全道研究発表に参加した職員は、法人施設の代表として皆の思いを代弁してきてくれました。
報告に行きつくまでご利用者本人と介護職が現場実践を重ねたのはもちろん、多職種職員間でディスカッションし、相談員は汗と涙でぐちゃぐちゃになりながら抄録や資料を作成調整し、発表者は滑舌の果てまで練習し、法人全職員協力一致団結で頑張りました。
何度も報告のリハーサルを行い、上司からも、同僚からも激励とダメ出しを受け、質問の傾向と対策を練り、それはそれは、敬老会の催し物の練習より大変だったのでした(?)
大会研修委員の皆様からは、動きだしの取組の主旨である『ご利用者本位の介護』は、自分たちが気づくことが出発点であるが、日々気づかずに流されてしまうことが多く、まさに我々の痛いところをついた示唆に富んだ発表であったと評価をいただきました。
出発の朝は、今回対象ご利用者様から、「頑張って、金メダルを取ってきてね」と言われ、発表者は、感激で胸いっぱいになりましたが、大会でいただいた評価でさらにいっぱいになってしまいました。
研究会参加職員は、一緒に頑張ってくれたご利用者様、ご指導いただいた日本医療大学の大堀教授、施設で待っている職員仲間に感謝しながら、これまでの実践の成果を精一杯伝え、受賞こそできませんでしたが、終了後は、心地よい汗をかき気分爽快でした。
芳生苑では、これからもご利用者様の思いに応え、自分らしく生活できるための「動きだし」介護実践を続けていきます。
次の現場実践指導は、7月29日(月)です。継続は力なり、また頑張っていきます。