2020年2月18日、今日は本年度最後の現場実践研修です。一年の集大成として、これまでの研修よりも更に気合が入ります。
「継続は力なり」
この取り組みを始めた当初、大堀先生からいただいたお言葉です。気づけば3年の月日が経ちました。地道に歩みを進め、時には半歩、下がったり、足踏みしたりすることもありましたが、職員一人ひとり着実に成長を遂げているのではないでしょうか。
本日もご利用者様のお力をお借りし、現場でのラウンド実践を行いました。
東棟現場実践ラウンド編
4名のご利用者様を対象に実践を行いました。その中で1事例をご紹介いたします。
Dさん 要介護5の男性です。実践の対象として取り組むことになった理由は
①起き上がりの際に背中が突っ張ってしまう
②首の拘縮があり、顎が上がってしまうため食事中にむせてしまう
この2点がありました。
実践する職員は入社1年目の介護員。前回のラウンドでは別の方の実践を行い、今回は2度目の実践になります。「なかなか上手くいかなくて…」と不安な気持ちがいっぱいですが、自分の関わりのどこが良くないのか、どうしたら良いのか、アドバイスをもらってスキルアップしたい!そんな気持ちで挑みました。
「Dさん、こんにちは」
「こんちは」
介護員に気づいて下さいました。
「起きて食堂行きませんか?」
問いかけにDさんの視線、頭が動きます。
「手、さわりますね」「足、さわりますね」
動作の一つひとつに、丁寧に声をかけながら行っていきます。
起き上がるための動作のほとんどは介助が必要です。ですが、Dさんは起き上がろうとして僅かに身体を動かします。そこを見逃さないこと、そしてそのタイミングで介助の力を加えていきます。大堀先生に教わったように、ゆっくりゆっくりと、ご本人が自分の身体を感じられるように時間をかけて起きていただきます。
いつもはこの起き上がりの際に背中が突っ張り、一人で起き上がりの介助を行うことがとても大変なのに、なぜか今日は身体の突っ張りが和らいで、スムーズに起きることが出来ました。
大堀先生は研修の時にいつも仰います。
「ご利用者さんが急に変わることはない。変わったのは私たちの関わり方。」
日々、ご利用者様と接していると、ついつい…
「今日はなんか調子悪いね」「今日はちょっと出来ないね」
そんな風に言ってしまいがちです。でもそれは間違っていて、私たちの接し方、声のかけ方、コミュニケーションの図り方、身体の触れ方、介助の仕方…
一つひとつがご利用者様の変化に繋がっていたのです。
「Dさん、少し歩いてみませんか?」
右足の靴を履こうとした瞬間、Dさんの左足が動きました。その動きを見逃さず、さっと左足に靴を添えます。
ご利用者様の動き、タイミングに合わせるという事が、少しずつ身についてきたようです。
ベッドから車椅子へ移る際、「1.2.1.2.」と掛け声をかけながら、足を動かしてみます。
僅かながらも足に力が入っており、右、左と足を運んでいる動きがありました。
車椅子に座り、
「Dさん、ありがとうございます」そう伝えると…
「もういいのか?」
そんなDさんを見て、実践した介護員はもちろん、周りで見ていた職員もみんな、微笑ましく、嬉しい気持ちになりました。
「起き上がりが良かったから、座位も良かった。その中で首の動きもあった。顎を引いている姿勢でなくてはいけない、としてしまうと本人も大変。一連の動作、その流れの中で、自分で自由に首を動かせている状況に気づいて、そこを評価する。」
大堀先生からこのようにアドバイスをいただきました。
全ての動作は繋がっています。
例えば、朝起きて朝食を食べるまで。人それぞれ、順序は違いますが、
目が覚めて顔を洗ったり、着替えたり、そうしているうちに「さぁご飯食べようかな」という気持ちになると思います。
「目が覚めました」「起きましょう」「ご飯です」
これでは、気持ちも身体もついていけるはずがありません。
今日の実践は、動作の一つひとつを丁寧に、動作の流れを大切に実践できたこと、そしてご本人のタイミングを感じ取りながら介助できたことで、身体が突っ張ることなく、首の動きも良かったという評価に繋がった実践だったように思います。
西棟現場実践ラウンド編
西棟では同じく4名の方を対象に実践を行い、そのうち2名は今回初めて先生からご指導をいただきます。
どの方を対象に実践するか、研修前はいつも悩みます。その中で、今回は新たなチャレンジとして行ったNさんの事例をご紹介いたします。
Nさんは今年1月に脳梗塞を発症し、2週間ほど入院。左半身の麻痺が残りました。それまでは歩行器も使用せず、独歩で生活をしていたので、Nさんにとっても職員にとっても戸惑いがありました。
「左手が全然、動かないんだ」
と右手で左手を持ち上げ、くたっとする左手を職員に見せます。
Nさんの気持ちを考えると、かける言葉が見つかりませんでした。
それでもNさんは気丈に笑顔を見せて下さいます。
そして「トイレに行きたいから連れてって」
ご本人の前向きな言葉に心を動かされたこと、それが今回実践することになったきっかけでした。
Nさんに会うと大堀先生はすぐにその方の出来る能力、可能性を見抜かれます。脳梗塞発症後、間もないことや、声を掛けたときのご利用者様の動き、その些細な情報だけで先生には全ての動き出しが見えるのでしょか。先生の一言ひとことがいつも学びであり、驚きです。
実践するのは介護リーダー。「動き出しはご本人から」の実践を一生懸命に取り組み、ご利用者様の動きをよく見て介助を行っている職員です。
実践を行うことになり、今日まで繰り返し練習を重ねてきました。
「布団めくれますか?」
動作の流れを意識して、まず起き上がりの前に、布団をめくることを実践します。
Nさんはすこし耳が遠いので、言葉が聞き取れなかったのか、なかなか布団をめくっていただけません。ここは少しお手伝い。
そして、足元のクッションを外し、起きる準備をしていると、Nさんが
「起こして下さい。」そう言いました。
まさかの言葉に、実践していた介護リーダーも驚きます。
起きることを分かっていて、次に何をするのか、自分の身体がどうなるのか、全て理解されていて、私たちの介助よりも先に動き出していました。
「僕らが追い付けていないということがよくある。それは動ける人の典型。」
そう大堀先生は仰います。
本人の「できそうだ」というタイミングに、瞬時に対応できることで、ご本人が持っている力を出せるようになる、そのことを学びました。
そこからの動作はとてもスムーズでした。
頭を上げていただき、頭を少し支えると自然と手すりに手が伸び、足が動き、身体を起こす動作になりました。そして、自分で手すりに掴まり、介護員の支えなしに、ベッドに座っています。
車椅子を傍に寄せ、移乗するための準備をしていると今度は
「もういいの?」
またしてもNさんは先に進んでいます。
「動いていたことを忘れていない今がチャンス。そしてご本人が麻痺になった身体に慣れるように、ご本人が自分の身体を感じる時間を他の方よりも作ると良い。」
そうアドバイスをいただきました。
ご利用者様のことを思うと
無理をさせてはいけないんじゃないか…怪我をしてしまったら…
そんな心配が頭を過り、戸惑うことがあります。
でも…「動き出しはご本人から」です。
自分の身体を誰よりも良く分かっているのはご本人です。
「船頭はご利用者、私たちは舵取り。」大堀先生から学びました。
ご利用者様という船頭が帆を上げ、前を向いているのに、舵取りが躊躇していては船が進んでいきません。ご利用者様を信じる大切さを、改めて実感した研修となりました。
終わりに…
「継続は力なり」
これまで実践を続け、私たちが変わったこと。
ご利用者様にかける言葉が穏やかになりました。
ご利用者様に触れる手が優しくなりました。
ご利用者様に送る視線があたたかくなりました。
この実践にゴールはありません。まだまだ成長!!
ご利用者様が安心して私たちの存在を受け入れ、関わらせていただけるように、丁寧さを忘れずに日々、実践を積み重ねていきたいと思います。