少し遅くなりましたが、1月20日の現場実践の様子をお伝えいたします。
東棟現場実践ラウンド編
今回は、意思疎通が少し難しいかたの現場実践を行ないました。
評価は、撮影したビデオをすぐに確認し、自分たちの動きを忘れず新鮮なうちに振り返ることにしました。
辺りはいつものスタッフ達なのに相変わらず実践のときは緊張します。
手と足が一緒に動いている気がします。
「いつも通りでいいですよー」と、周りから声がかかります。
馴染みのご利用者様の顔を見ると、ほっとします。
「こんにちは。Sさん、そろそろ起きましょうか?」
「お布団をはぐことはできますか?」
「うん。」
返事はしていただけましたが、少しも動く気配がありません。
実践スタッフは、粘ります。
「この、タオルケット持てますか?」
「うん」
やっぱり、動く気配はありません。
でも、「うん」と言ってくれたことが、このご利用者様の動き出しだったのでしょう。
「私がお手伝いしていいですか」との声かけに手が伸び、スタッフの手を握ってくれました。
動き出しは、言葉の魔法。声かけが一番重要です。
目を見て、心が通い、言葉でこれからの動く方向を伝えます。
これまで何度も実践を繰り返し、その言葉の大切さを理解していても、日常業務ではなかなかゆっくりとはいきません。
けれど、これまで何度も動き出しの介護実践を繰り返してきて、意識をしなくても相手の顔を見て笑顔でアイコンタクトを充分にして声かけすることが、スタッフの中では当たり前になっています。
これからは、もっと自然に、もっと心を開いてどんな状態のかたに対しても声かけ出来ればと思います。
いつも一番の理解者は、ご利用者様です。
2例目で、意思疎通がとても難しくて苦戦していた実践が終わり、「Kさん、ありがとうございました」と伝えた時、急にスタッフの手を握ってほおずりされる場面があったのです。
何ともほほえましい場面に参加者全員が笑顔になりました。
スタッフは、上手な声かけができずもう一歩だったと反省していましたが、そんなことはありません、思いはきちんと伝わっていたのでしょうね。
継続は、力なり。一歩進んで二歩(もっとでしょうか?)下がりながらでも続けています。
西棟現場実践ラウンド編
西棟も2名の方の実践ラウンドでした。
今回は、エルダーとそのサポートを受けていた後輩スタッフが実践者でした。
後輩に刺激を受けて、先輩もよりいっそう緊張が高まります。
最初は、後輩スタッフが、少しコミュニケーションの難しいかたについて実践しました。
足が尖足気味で足首やひざにつっぱりがあるため、拘縮が進まないよう座位や立位の機会を持とうということで取り組みを継続している方でした。
ちょっと気難しい方であるので、声かけのひとつひとつが勉強です。
「こんにちは、Kさん」
「起きるところを、皆さんに見てもらっていいですか」
「Kさん、眠いですか」
とやさしく声をかけると、
「Kさん、Kさんって言うな」
「早くせえ!」
と、か細い声ながら、ちょっと厳しい言葉が出ます。
でも、スタッフはめげません。
「お手伝いしますね」と声をかけながら、小さくうなづくKさんを見逃さず、しっかり手すりを握っていただいて身体を起こし座位の状態になってもらうことができました。
「車椅子に座ってもらって大丈夫ですか?」
Kさんは、「うん」と小さな声で答えてくれました。
「足に力を入れられますか?」と用意した足台に足を乗せたとき、
「今日は、力が入らん」ときちんと自分の状態を知らせてくれました。
「じゃあ、私手伝ってもいいですか」との声かけには
小さく「うん」とやさしく答えてくれました。
でも、車椅子の移乗時には
「早くせえって!」と厳しい言葉が…
ですが、関係性はきちんとできてるのですね。
そのあとKさんは、安心しきった表情を見せてくれて、周りの皆さんもスタッフもなんとも穏やかで優しい気持ちになることができました。
ラウンド後の評価では、拘縮しないような関わりを進めた先の目標は何なのかという問いがありました。
本人には言葉がしっかりと伝わっており、座位姿勢も自身で実感していた。こうしてきちんと理解出来る方だからこそ次のステップに繋げてはどうかという声でした。
日常の実践では、本人の状態によって手すりを掴む位置が変わったり、足の運びが違ったりします。
その時、実際に立つことができないとしても、手を伸ばし「さあ、行くんだ」、という気持ちの動き出しを実感することが日々大切なことなのだと思います。
続いては、先輩スタッフの実践でした。
エルダーとしての意地もありますが、その頑張りがますます緊張感を高めます。
大変耳が遠いご利用者様で、なかなか意思疎通がとれません。
でも、いつもスタッフを和ませてくれる明るいキャラクターで、今回の実践も常時笑いを誘い、緊張感を吹き飛ばしてくれていました。
「Iさん、こんにちは。今日は、皆さんいっぱい見に来てますよ」
「見に来てるって?なんで?」
「Iさんが起きるところを見せてほしいんですけど、協力してもらっていいですか?」
「何するの?」
「ベッドから起きてもらえますか?」
「ああ、いいよ」(なかなか伝わらずここまで伝えるのに相当時間がかかっています。)
「横を向いてくれますか」(実践スタッフは、もうすでに汗だくです。)
「みんなどこの人さ」(実践スタッフの声は、まったく聞こえていません)
「はずかしいね、あはは」(全然、話が食い違います)
「僕の方を向いて手を伸ばしてもらっていいですか?」
(照れて、笑ってなかなか横を向いてくれません。攻防は続きます。)
「恥ずかしいんだよお、あはは」
でも、それからもスタッフは、繰り返しやさしく声をかけ、じっくり待ったその時、言ってくれました。
「一人で起きられん」
「大丈夫、僕、お手伝いしますよ」
と、スタッフは、緊張して汗びっしょりになった手を思わずユニフォームの大きなおなかのところでぬぐいました。
これにはIさんも大きな目でびっくり(でも、顔は笑っていました)
まわりのスタッフが大笑いする中、Iさんはスタッフのサポートでスムーズに起き、そのまま車いすにも乗れました。
この後の評価では、ご本人の動きにはもっと可能性があるとのことでした。
自身で座り直しもできていて、これからはもっと自分で出来ることが増え、今以上に動けるようになっていくのが楽しみとの声がありました。実際に動き出しの実践を始めて、入所されたときには寝たきりの状態であったIさんが今現在では、車椅子を自走できるようにまでなっています。
スタッフとの楽しい掛け合いも日常的と聞いています。気持ちの動きだしもすすんでいるのでしょう。
今年度は、自分達に甘えが出そうになった頃を見計らい、実現場践を何度も繰り返しています。
だからこそ、実践後の評価では、遠慮ない提案や意見が飛び交います。
ご指導いただいている日本医療大学の大堀具視教授からは、実践後直ぐのビデオでの振り返りは、とても効果があるとのことでした。今回はあらためて恥ずかしながら自分たちの実践を直ぐに繰り返し見ながら評価しました。
毎回、思うのですが皆さんのご利用者様に対する想いやエネルギーはとても素晴らしいものがあります。ご利用者様がより暮らしやすく、活気よく生活できるように真剣に話し合います。
そして、終末期であっても、動き出しの基本は忘れずに、ご本人の気持ちを尊重します。
現在、数名の方が終末期を迎えています。
新型コロナウイルス感染症の影響で、思うようにはいかないことが沢山あります。
スタッフは、 ご家族と共に過ごす時間がうまく作ってあげられず、理想と現実のギャップに悩んでいます。
ですが、どんな状態にあっても、出来る限り想いを尊重し寄り添うことで、ご利用者様自身がこの瞬間に存在している、生きていることへの証を感じてもらえればと思います。
まだまだ、道のりは険しいですが、「動き出し」をベースにご利用者様と一緒に笑顔で頑張っていきます。