毎月のサービス担当者会議の中では、いつも各検討委員会からの提案がありますが、あるユニットの中では、毎回、介護リーダーからちょっとしたほっこりする小噺が紹介されています。
今月は、リーダーのお話に加えて、リーダーが昨年からエルダーとして指導している2年目の職員も小噺の小噺を発表してくれました。
心が動けば体も動く
リーダーからは、認知症状が強く、突然表情が変わる方のかかわりについてお話がありました。
感情の変化が大きく、にこにこしていても突然怒りをあらわにし、入浴拒否をされるといった方が、最近とても表情が良くなり、声かけにもスムーズに動いてくださるようになった事例の話でした。
「お風呂に行きませんか」ではなく、「○○さんのためにお風呂用意してみました。大変いい湯加減ですが、いかがですか」というような声かけをしたそうです。
「あなたのためだけに用意したんですよ」というかかわりかたが、自分を見てくれていると感じたのでしょうか。それ以来とてもスムーズに動いてくださって、これまで大変難しかった夕食後の口腔ケアにまでつながったそうです。
そして最後に、「僕だけじゃなく、スタッフ皆さん全体が、日常的にご本人本位の生活を尊重するかかわりを継続してくださっていることが、精神的な安定につながっているのです。」と話してくれました。
リーダーは、こうして毎回会議にちょっとした、かかわりかたのヒントだったり、失敗した例、成功した事例をユニットの皆さんと共有するため、楽しいエピソードを添えて伝えてくれています。
目を見て、心をつなげて
続いて、昨年、異業種から入職された職員からのミニ小噺です。
この方は、1年前からこの介護の仕事に就きたくて、時間をかけて周囲のご理解をいただき、晴れて私たちの仲間となりました。
エルダーの影響か、この1年でご利用者様とのかかわりかたが大変上手になりました。
今回は、彼の日常のケアの経験から、あらためて私たちが基本を振り返る事の大切さを気づかせてくれたお話しです。
「僕、今すごく大好きな人がいるんですが…」
小噺の最初から、私たちは彼の発言にびっくりしました。
参加者みんなで、「思ったことは何でも話してみていいですよ」とは言ったものの…。
「実は、最近、定期的にショートスティをご利用されることになったMさんのことがすごく好きになってしまったんです」と彼は言いました。
あらら、かなりの年の差?。
なんてことはなく、
彼の事例対象者の話です。
「僕、ショートスティ利用者Mさんに初めてお会いしたとき、これまで習った『動きだし』や『ユマニチュード』を基本にかかわろうと、目線をしっかり合わせて笑顔でお話をしたんです。
Mさんは、すぐに僕の事を覚えてくれて、ご利用されるたびに、色々お話ししてくれるようになりました。ある時、Mさんが僕にこう言ってくれました。
『あなたは、本当に私を見てくれている。初めて出会った時、きちんと目を見て話してくれた。だから、あなたの事すぐ覚えたの。ここに来るたび会えて嬉しい!』と、すごく素敵な笑顔で言ってくれたんですよ。だから大好きになってしまったんです。」
この話をしている彼自身が、本当に嬉しそうでした。
このご利用者様は、以前お元気だったときには、毎朝新聞をくまなく読み、町内の色々なサークルや公民館活動などへ積極的に参加される活発で活動的な方でした。
市街地区から離れ、農村部でご家族と暮らしておられますが、過疎化が進み、地域に同じ年代の方がひとり、ふたりと減って、他者とのかかわりが少なくなった頃、物忘れや物とられ妄想などの認知症状が見られるようになりました。
農業を営んでいるご家族は、以前の明るい感じがすっかり影をひそめてしまったご利用者様を心配し、ご自身たちのレスパイトも兼ねて、ショートスティを利用されることにしたのです。
最近では、併設のデイサービスとショートスティを定期的に利用され、どちらの利用も楽しみにしていただけるようになったと伺っています。
私たちは見られている
ご利用者様は、きちんと私たち介護者を見ています。
ご本人をより深く知るには、どんなケアの場面でもきちんと目を見て心をつないでいくことが大切です。
これまでも、まず目を合わせることから、身体が、心が、動くことを感じてきたはずなのに、最近少しかかわり方が曖昧になってきていました。
今回、彼のミニ小噺を聞いて、振り返り、あらためて目線を合わせるその大切さを教えられました。
動き出しの、基本中の基本である、『目線を合わせる』
個人差はあります。目線を合わせるだけかもしれないし、ほんの数ミリの体重移動かもしれないし、もしかして歩けなかったかたが歩けるようになるかもしれません。
いくらしっかり見つめっても、うまく繋がらないことだってあります。
心が動かない時があります。
ですが、何のバリヤーもなく、繋がったと感じるその瞬間は、自己満足かもしれませんが、何物にも代えがたいものがあります。
移乗介助をしている際に、ご利用者をフッと軽く感じる瞬間があります。
しっかりご自分で動き出そうとするご利用者様を『待ち』、その思いが、触れている私たちの身体に伝わることで、互いの信頼関係が深まるからこそ起きる感覚だと思われます。
スタッフは、「ありがとう」、「うれしい」と言われるたびに、「この仕事をやっていて良かった、また明日からも頑張っていこう」と前を向いて介護を続けていくことができます。
これからもそんな素敵な一言をもらえるよう、もっともっとケア向上に取り組んでいきたいと思います。
今回のエルダー職員、後輩職員に限らず、職員はいろいろな想いを持ってケアに当たっています。
皆さんのそんな小噺を、今後も『動き出しはご本人から』シリーズの中で、ご紹介していきたいと思います。