猛暑の中、7月29日(月)今年度2回目の『動き出しはご本人から』の介護技術現場実践を実施しました。
今回は、いつもご指導いただいている日本医療大学 大堀具視教授から、日頃からお付き合いのある方々をご紹介いただいて、色々な視点からアドバイスを頂くことが出来ました。
大堀先生の『動きだしはご本人から』に通ずる考え方をお持ちである早稲田大学文学学術院 細馬宏通教授(著書「介護するからだ」)と、中央法規出版 「おはよう21」・「ケアマネージャー」国保 昌編集長が、東京から急きょ今回のラウンドに参加していただけることになったのです。
職員皆が、素晴らしいゲストに喜びつつ、いつもに増して緊張した中での実践ラウンドとなりました。
毎回、現場実践の日は、どうして暑くなるのでしょう。職員の想いが熱いからでしょうか。
当日までどうかご利用者様の体調が崩れませんようにと願いながら、実践のときを迎えました。
実践者は、「いつもの動きを発揮していただけるだろうか」、「いや、一緒に毎日頑張ってきたから大丈夫」と言い聞かせて、現場実践がはじまりました。
居住棟ごとの実践ラウンドは、次のような実践となりました。
東棟ラウンド編
今回東棟ラウンドでは、大堀先生から、動きの先にご利用者様はどんなことが出来るようになっていくのか、それを私たちがどれだけ想像していけるかが大切だとご指導くださいました。
歩けたから、「はい、終わり!」ではない。ご利用者様の日常生活は、動けたことでまた変化してくる。変化の先を想像して私たちはどう関わりを持つのか、声かけひとつとってもそれを意識していくことが大切なんだと教えていただきました。
今回東棟ラウンドは、歩行時の体幹のバランス保持、安定した移乗動作、スムーズな更衣動作、端座位の姿勢保持を目標に実施しました。
日常から取り組みを進めている方、継続の方と合わせて5名の方の実践についてご指導いただきました。
先日、実践発表で事例対象者となった方は、「眠くて眠くて、まだ起きたくない」と今回は、実践ができませんでした。次回、先生にお会いするまで自主練習を頑張ることにしました。
今回は、座位姿勢保持を目標とする方との関わりで、職員がいつも苦戦していた1事例について、ご紹介します。
前回の実践ラウンドでは、入職したばかりの職員との信頼関係構築から座位保持へというところをご指導いただきました。
現在では、東棟職員との毎日のかかわりで2か月前より座位の時間が長くなったため、ステップアップし、食事時の姿勢保持について今回ベテラン介護職員が代表して指導を受けました。
日常では、なかなか姿勢の保持は難しく、食事の間じゅう何度か傾きを調整することがありました。
今回、先生の指導の内容は
①座位姿勢でのふらつきについて、過度に抑えようとすると本人がそれにつられるので最低限に。
介護者があわてると、ご利用者様もあわてる。危険がない程度にご本人にバランスを取っていただくことが大事なのだそうです。
②自分の身体に集中している状況を大切に。
本人は自分の変化に敏感になれるとその分言葉が減っていく。不安なときこそ、よくおしゃべりしたり、動きも多くなったりするそうです。
実践では、ご本人が集中している今この時を大切にしました。本人からいつものような柔和な表情は消え、言葉が少なく、とても真剣に座位を保持しようと頑張っているのが良くわかりました。
逆を言えば、おしゃべりをする余裕がないくらい真剣に座位保持をしていたのです。
今後、もっとご本人の想いを知り、動きを尊重できるよう、自分たちの関わり方を見直すようにしていこうと思います。緊張しないで長く座っていられるようにしたいと思います。
早稲田大学細馬教授からは、幾多の実践の中で、「おっかない」(恐ろしい)という声があっても、身体は動いていて別な形でバランスをとろうとする動き出しがあったとのことでした。
東京の方に「おっかない」という方言を理解していただいたことも驚きでしたが、観察眼のすごさについてもさすがという感じでした。
西棟ラウンド編
必要以上の介助はご本人の身体に力が入り余計な緊張につながる。介助すればするほどガチガチになり、私たちはそれを本人のせいにしてしまうと、大堀先生は言います。
自分たちのケア次第でご利用者様からの信頼を得ることができ、本人が力を出してくれるのです。
西棟では、ご本人自身は恐ろしさを感じていないのに、介護者自身が覚悟をしきれず不安で介助しすぎてしまうといった場面がありました。動き出しを待てない現実がこういったところなのです。
今回西棟ラウンドは、身体機能の維持、安定した歩行動作、精神的な不安感の強い方への対応、痛みがある方の自力動作支援を目標に実施しました。
継続、新規の方、合わせて4名の方の実践についてご指導いただきました。
その中で、西棟からは、入職1年目の職員が実践した事例を紹介します。
気持ちにムラがありご本人が自ら動こうとする気持ちにならないご利用者様に対して、少しでも本人の意思で動きだせるようになることを目標に実践を行いました。
大変難しい事例でしたが、新人職員は、介護の技術というより関係性を構築しご本人の思いに気づけるようになることから始めました。
普段から丁寧な関わりに努め、当日もひとつひとつ丁寧に声かけをしました。
優し声かけに、絡まった糸がほぐれるように動きが増えていきます。
でも、相変わらず自暴自棄な悲しい言葉を口に出されます。
先生は、ご本人から放たれる「死んだ方がいいんだ」という言葉は、本当はまだ出来るんだという裏返しであると言います。
その言葉をどう感じとって、どうかかわるか、本人の気持ちにどう応えられるかが、大切なのです。
新人職員にとっては、大変な事例だと思いましたが、根っからの優しい性格、素敵な笑顔が、今後もこのご利用者の心をほぐしていくのではないかと思います。
他施設の方からは、東棟での実践での関わり(隣に座ってコミュニケーションを図る)ことを取り入れてはどうかというアドバイスをいただきました。
その他、最初から継続してご指導をいただいている、ご自分で動くことが大変難しい仰臥状態の方について、今回も前回5月実践そして初めて見た2年前と変わっていない、変わっていないという成果は、毎日の積み重ねのたまものであると、感心しておられました。
この方は会話をすることが難しいため、想像の域ではあるけれど、本人が本人の能力に気づくための変化を日常の中でどう作るかが大切になるとのことです。
自分の目で見て関わる、自分の目を信用する、それを継続することで、その先に信頼関係がある。
ご本人と介護員との信頼関係、地道な実践が実を結んでいくのです。
次回実践研修まで、今回ご指導いただいたところを中心に、現場で実践を積み重ねていきます。