<西棟現場ラウンド編の続きです>
後半戦の東棟ラウンドの利用者様は、2名とも認知・生活機能が比較的保たれているかたで、今回、日頃の生活動作を維持するためのご本人の能力を引き出す『動き出し』に視点を置き実践しました。
日常的なケアの中では、限られたスタッフで十分な時間を取り関わることは難しく、特に状態が安定されているかたは、放任というわけではないですが、ご本人のペースに任せることで、関わる機会が少なくなるのが実際です。
ですが、生活機能の維持は、意識しないと加齢や既往により身体機能が低下し、特に高齢者は廃用が進むため、本人だけのペースでは日常動作に支障が見られるようになります。
私たちは、本人のペースを尊重し、これまでできていたことを継続し日常生活の中で活気よく過ごしていただけるよう、介護技術とコミュニケーションについて実践を進めました。
3事例目
お一人目の事例は、円背が強く顔が下向き傾向で、さらに既往により頬が下垂していることから、食事中にむせることが増えたため、日々の運動で解消したいというスタッフの思いがありました。
ご本人曰く、実践は、周りにスタッフが多くて緊張したとのことで、いつも通りの立ち上がりが出来ず、車いすへの移乗もいつものペースにならなかったようでした。
【大堀先生からのアドバイス】
大堀先生からは、コミュニケーションは十分取れ、円背の状態はそれなりの方で、首の動く範囲が広く、土台の筋力は強いと言われました。もともとご主人と長年農業を営んでおり、身体がしっかりしているからなのかもしれません。
そして、介助者が先生と話をしている間に、自分でいつもの首の運動をし始めるという嬉しいアクシデントがあり、先生は、前向きなその姿勢が印象的だとおっしゃっていました。
そして、円背は直るものではないが、顔が下を向くのも含めて、立って背筋の筋力をつけることが大事であると教えていただきました。
4事例目
次の方は、入所してから2ヶ月の方で、要介護2の方ですが事情により特養入所となった方です。脳血管障害の後遺症による片麻痺の生活が長く、自身の状態をよく理解している方です。
これまで入居していた施設においては、自身の努力により介護度の改善が見られるなど、とても意欲のある方でしたが、このところ意識的なリハビリが実施できず、歩行が困難となっていました。
芳生苑での日常生活スタート時は、麻痺側の足の運びが悪く、重心が片側に寄っていることから、バランスが悪く転倒の危険性があることと、ベッドから車いすへの移乗の際に麻痺側の足をひねりそうな怖さがありました。
ラウンドでは、ベッドからの起き上がり、車いす移乗までの一連の動作と平行棒を使用した歩行について実践を行いました。
起き上がりから車いす移乗は、麻痺側の心配はあるものの、ご本人は、「今日テレビに映るんだ!」(オンラインのことですが…)と意気込んでいたので大変動きがよくスムーズに移乗できました。
歩行に関しても意欲的で、とても足の運びが良く、右、左、きちんと踏みしめて歩いておられました。
実践者とそのパートナースタッフは、現場実践を始めた最初のころは自分たちの不安が、ご利用者に伝わり中々うまくいかない様子でしたが、実践を繰り返すうちに信頼関係が築けて、改めて自分たちに自信が生まれたと言っていました。今日は一番うまくできました。
生活相談員からは、最初から「危ない」、「できない」と言う先入観を持つことなく、「できる」と信じて利用者と関わっていくことがとても大切だというアドバイスがありました。
今回、歩行の実践で、実践者が「ちょっと待ってください」、「ああやっぱりいいですよ」と迷う場面が見られ、実はご利用者自身も戸惑っていました。
ですが、実践者が待っているところまで歩けると、小さな声でしたがご利用者は「あなたがいてくれたから頑張れた」と言ってくれたのです。ふだんの関わり(コミュニケーション)の嬉しい成果ですね。
【大堀先生のアドバイス】
「何でもかんでも本人を信じるのはちょっと宗教的になってしまう。スタッフは、ご本人の動きからこの人は歩けると感じたと言っていたが、この方は視野が広い。視野の分だけ動けると本人は感じている。
「足を下ろしましょう」という段階的なお願いより、この方はもう「こちらに来てください」でいいのかもしれないですね。本人の意思に任せていい。動き出しの声掛けは、その方の状態によります。
これまで生活していた施設での動きを忘れないように、気持ちが萎えてしまわないように本人のペースで進めていくとことは大切です。
そして移乗の際に麻痺側の足を支えるのをやめてみるなど、変化をつけるのが、介護技術を発展的にしていくことです。
今回歩行に関しては、膝が伸び切っている。痛みが出てくるので、今の程度で抑えておく、良い方の足(健側)の力を使う、幅広の4点杖を使うなど工夫をしてみては。
麻痺側の足で気を付けることは、多分以前の施設で装具などを装着していたと思われる方なのでやはりひねることのリスクに注意をしてください。
良い方の足が機能すると麻痺側の足が引きずられ、より前に出せるようになる。健側の手の力だけで体を動かそうとするのではなく、いかにその手を緩められるかですよ。」と、
このように、いつもの実践指導のほか具体的なテクニックを教えていただくことができました。
【全体を通して】
今回は、オンラインのため、ラウンド対象者を4人に絞って実施しました。
西棟は、全介助で意思疎通が困難な方、東棟は能力的な動きだしの方の実践でした。
コロナ禍における研修継続の難しさはありますが、ケアがマンネリ化し事故やヒヤリハットへつながることのないよう、今できる範囲での技術研鑽を行い、ご利用者に良いサービスを提供しようと思い頑張っています。
そして、ご利用者はもちろん、職員の福利厚生イベント等はできない現状ですが、こうした研修を通じ、仲間意識を醸成するとともに仕事への達成感を持てることで、いろんな面で自信につながるのではないかと思います。
我慢することが多い時ですが、少しでも心豊かな職場環境づくりにつながればと考えています。
日頃から、スタッフは、徹底した感染予防対策でプライベートも行動の制限や自粛などを、自ら強いて利用者の命を守るため頑張っています。
現在コロナウイルスは、未曽有の感染拡大で、自分たちの施設もいつどこでどうなるかといった不安はぬぐえませんが、一日も早く、この状況が落ち着くことを願い、日々ご利用者の思いに寄り添った良いケアを提供していきたいと思います。
大変な状況ですが、同じ福祉関係職場の全国の仲間の皆さん、お体に気を付けてご利用者様のためにも一緒に頑張っていきましょう。